2026.05.19

【連載】クリーンアスリートになるために:アスリートの生命線 アンチ・ドーピング規則の厳格さと「自己防衛」の極意

執筆者:アンチドーピング委員 篠木真帆

ドーピング検査で陽性反応が出たという一報は、競技者にとって人生最大の衝撃である。2026年現在、世界のアンチ・ドーピング体制は世界アンチ・ドーピング規程に基づき、極めて厳格に運用されている。競技者が自身のキャリアを保護し、意図しない「うっかりドーピング」を避けるためには、アンチ・ドーピング規定の知識だけでなく、法的知識と実践的な防衛策が不可欠である。

  1. 逃げ場のない「厳格責任」という壁
    アンチ・ドーピング規則の根幹を成すのは、「厳格責任」という原則である。これは、アスリートが意図的に薬物を使用したかどうかにかかわらず、採取された検体から禁止物質が検出されたという客観的事実のみをもって、規則違反が成立するという考え方である。

「医師に処方された薬だった」、「サプリメントのラベルに記載がなかった」という弁明は、違反そのものの成立を否定する理由にはならない。アスリートは自身の体内に摂り入れるあらゆるものに対して、個人的かつ絶対的な責任を負わなければならないのである。
【参考文献】
1:https://www.realchampion.jp/what/adrv/kisokuihan/kisokuihan.html
2:https://www.realchampion.jp/what/adrv-what/result/rule.html

  1. 「潔白の証明」が極めて困難な理由
    万が一、検査で陽性となった場合、原則として4年間の資格停止処分が課される。この期間を短縮するためには、競技者側が「禁止物質がどのようにして体内に侵入したか(侵入経路)」を特定し、その上で自身に「意図」や「重大な過失」がなかったことを証明しなければならない。
    特に「侵入経路の特定」は最大の障壁となる。数週間前の食事やサプリメントはすでに消費されており、客観的な証拠を提示することが困難だからである。経路が不明な場合、原則として処分の軽減は認められず、意図的なドーピングと同じ重い制裁を受け入れることになる。実際に主張が認められるまでに、CAS(スポーツ仲裁裁判所)まで争って3年近い歳月を要した事例も存在する。
    【参考文献】
    1:https://www.iuau.jp/sp1/topics/tokubetu_kikou_260106.pdf
    2:https://www.playtruejapan.org/code/rule/judgment.html
  2. 実践的指針:自分を守るための「鉄則」
    「うっかりドーピング」を避け、万が一の際の立証手段を確保するためには、日々の活動において以下の指針を徹底する必要がある。
    認証サプリメントに限定し、現物を残す: 第三者認証を受けた製品(スポーツ栄養WEB(https://sndj-web.jp/anti-doping/)に掲載されているもの、クリーンスポーツニッポンセレクト(https://cleansport.jp/select/products/)にて検索可能なもの)のみを使用し、万が一の分析用に「最後の一錠」を袋に残して保管する。
    Global DRO等での確認:薬を使用する際は、検索エンジン「Global DRO」で禁止物質でないかを確認し、検索履歴を残す。
    医師への確認:アンチ・ドーピングの知識のあるスポーツドクターに確認する。
    薬剤師への確認:アンチ・ドーピングの知識のあるスポーツファーマシストに確認する。
    公式記録書への正確な記載: 検査時に、直近7日間に使用した全ての物質を漏れなく記載する。
    相談履歴の保存: 自身の注意義務が「重大な過失」とみなされないよう、専門家への相談履歴やGrobal DROでの検索履歴は保存することが法的な武器となる。
  3. 万が一の際の紛争解決手続き
    規律パネルの決定に納得がいかない場合、国内レベルのアスリートは日本スポーツ仲裁機構(https://www.jsaa.jp/)へ不服申し立てを行うことができる。スポーツ仲裁機構の審理は迅速に行われ、裁定は確定判決と同一の効力を持つ。
    また、経済的な理由で弁護士を雇えない競技者のために、一定の要件下で弁護士費用を支援する制度も整備されている。陽性通知を受けた際は、直ちに専門の弁護士に相談し、迅速に証拠を確保することがキャリアを守る唯一の道である。

上記の手続きは、アスリート自身が行わなければならない。たとえ「うっかり」だとしても、選手自身に大きな負担となってしまう。

今一度、自身の摂取している食事・医薬品・サプリメントに責任を持とう。

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