アンチ・ドーピング
[アンチ・ドーピング連載]スポーツで禁止される利尿薬・隠蔽薬
執筆者:アンチ・ドーピング委員 藤井 悠子
クリーンでフェアなスポーツを守るために、世界アンチ・ドーピング規定(World Anti-Doping Code:通称Code)という全世界・全スポーツ統一のルールが存在する。そして、Codeの基本原理の最上位に「アスリートの健康」が位置付けられている。アスリートはドーピングにより健康を損なうことがないように、定められた禁止物質と禁止方法を理解し、自身の体内に摂り入れる物に責任を持った行動を求められる。
ドーピングと聞くと、スポーツで禁止されている物質やルールに反する方法を使って意図的に競技力を高めることを思い浮かべる方が多いと思われるが、「これらの行為を隠すこと」についてもアンチ・ドーピング規則違反に該当する。
今回は、禁止物質に該当する「利尿薬・隠蔽薬」について確認する。
利尿薬・隠蔽薬とは
ドーピング検査をすり抜けるために使用される薬物のことで、尿中からの禁止物質の排泄を低下させたり促進したりする作用をもつ物質や、血液パラメータを変化させる物質が対象となる。
禁止表国際基準では、常に(競技会(時)及び競技会外)で禁止される物質に該当する。
利尿薬・隠蔽薬の一例
| 成分名 | 臨床での主な適応疾患 | 備考 |
| フロセミド | 高血圧症、心不全 | 幅広い疾患、年齢を対象に使用 |
| ヒドロクロロチアジド | 高血圧症、心不全 | 配合剤として含まれる薬剤があり注意が必要 |
| デスモプレシン | 尿崩症 | 小児の夜尿症に対し頻用 |
| プロベネシド | 痛風 | 痛風の薬が禁止ではなく成分特異的に対象 |
| マンニトール | 急性腎障害、緑内障 | 直接的な治療効果を目的としてのみならず添加物として広く使用 |
ここで、誤解の多い薬剤について説明する。解熱鎮痛剤として汎用されるアセトアミノフェンの点滴製剤であるアセリオ静注液®には禁止物質であるマンニトールが添加されている。マンニトールは、体重当たり0.5g以上(体重50kg換算で25g)に対する使用がアンチ・ドーピング規則違反に該当する。アセリオ静注液®1バック(100mL)に含まれるマンニトールは3.85gであり、添付文書通りの1回量の使用であれば、違反には該当しない。
<実際の違反事例>
自転車競技の選手が競技会外における抜き打ち検査を受けた際、利尿薬にあたるアセタゾラミドが検出された。意図的な摂取ではなかったが、4カ月間の資格停止処分となった。
アセタゾラミドが体内に入った経緯を遡ると、検査4日前に眼科手術(ICL手術)を行った際に術後の眼圧調整のためにアセタゾラミドが投与されていた。
アセタゾラミドは高山病の予防や治療のために使用されることもあり、利尿薬や隠蔽薬に関しては特に、医師や薬剤師から薬剤の説明を受けた際に禁止物質に該当する作用を持つかどうか、判別が付きづらい物質が多く存在する。思い込みではなく、確実にアンチ・ドーピング規則違反にならないかどうかの確認をすることが大切である。
また、口から摂取した薬剤だけではなく貼り薬によって皮膚から吸収されたり、点鼻薬によって鼻の粘膜から吸収されたり、あらゆる方法で薬剤は体内に入り、ドーピング検査において禁止物質が検出される可能性があることに留意しよう。
使用する薬剤に関して不明点があれば、必ず薬剤を使用する前に日本水泳連盟ホームページ薬の相談窓口に問い合わせをお願いします。
https://aquatics.or.jp/anti-doping/consultation/
参考資料:JADAホームページ,https://www.playtruejapan.org
UCIホームページ,https://www.uci.org
塚越祐太,元島清香,金岡恒治.‟アンチ・ドーピングに留意したアスリートに対する鎮痛薬の処方”.運動器の痛みに対する薬の上手な使いかた. Monthly Book Orthopaedics,2024年,P.201-206
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