激しい日本一決定戦に興奮 世界水泳選手権での活躍を望む(第101回日本選手権水泳競技大会 水球競技特別リポート)
広報委員会:本條強
「面白かった!」
水球を生で見た人は、きっとそんな率直な感想を持ってくれることだろう。私もそう。見た大会は日本選手権。水球日本一決定戦だ。
水球は「水中の格闘技」と呼ばれているが、観客は水の中を見ることができないから、本当に面白いのかといぶかっていた。ところがどうだ! 開始早々、激しいアタック。ぶつかり合ってボールを持つ選手に襲いかかる。そう、襲いかかるの表現がぴったりだ。ライオンやトラやクマが獲物に襲いかかるように。
水球はハンドボールに似ていると言うが、そんなもんじゃない。ラグビーの如き激しさだ。それも水の中でやるのだから、沈められたら息ができない。ずっと立ち泳ぎでプレーする。地に足を着けているスポーツより過酷だろう。
午前中に女子の3位決定勝があり、Violet Starsが17対13でブルボンウォーターポロクラブ柏崎に勝利し、2年連続の3位となった。この後いよいよ決勝戦。NSSU Water Polo Club(以下NSSU)対秀明大学水球クラブ(以下秀明)。試合開始と同時に激しいボールの奪い合い。秀明がカウンターで先制点を奪い、2点目も決める。その後は両者点の奪い合いで第1ピリオドは6-5で秀明がリード。第2ピリオド開始し、NSSUが同点に追いつくも秀明が突き放す。しかし終了前に2点連続ゴールでNSSUが9対8で逆転した。第3ピリオドは開始早々3連続得点、しかし秀明も追いすがり12-11と1点差。最終第4ピリオドは一進一退の攻防、17-15の2点差でNSSUが振り切った。大熱戦に館内は大盛り上がりだった。
チームの精神的支柱、キャプテンの設楽ひかる選手はほっとした表情。「秀明が必死にタイトルを奪回しに来ることは分かっていました。それを阻めて自分たちが2連覇できたのは素直にうれしいです」。チームの得点王となった河口華子選手は「全員がシュートを打てるチーム。ウェイトも積んだしパワーアップした。攻撃力で勝てました」と胸を張った。
大井恵滋監督は全身汗びっしょり。「秀明さんはカウンターのチーム。それを出されないようによくプレスした。攻撃後の戻りも早かった。試合開始は選手の目が泳いでいたが、徐々に視野が広がって抑えることができた。主将の設楽がボールを持てば誰も止められない。彼女とともに全員でゴールに向かった、練習では日体大の男子が加わってうちの女子を鍛えてくれたのが大きかった。感謝しています」。大井監督の豪快な笑い声が響いた。
水球は英国で始まった。19世紀半ばにプールが設営され、水泳が盛んになると、水中フットボールも行われるようになる。これに伴い正式なルールが作られてウォーターポロの名となり、欧州や米国に広がっていく。1900年パリのオリンピックの正式種目となる(女子は2000年)。日本にもすぐに伝わり、各大学に水球クラブが誕生。1932年ロスオリンピックに日本代表が出場。水球は歴史と伝統ある競技なのだ。現在欧州では人気が高くプロリーグもある。イタリアやスペイン、ギリシャ、ハンガリー、クロアチア、モンテネグロなどが強豪国だ。日本も追いつけ追い越せと強化が図られている。
さて、今年の日本選手権、この日の午後は男子3位決定戦から。AIDEN対日本体育大学(以下日体大)。日体大はかつて376連勝を成し遂げた名門校。試合は日体大が粘り強いAIDENを体力で優り、18対13で勝利。試合中は時速70kmという高速シュートとそれをガードするキーパーの体に当たる大きな音にびっくり。ボールの激しい奪い合いだけでない恐ろしさを間近で目撃した。
決勝戦はIKAI・Kingfisher74(以下IKAI)対ブルボンウォーターポロクラブ柏崎(以下ブルボン)。両チームとも海外でも活躍する日本代表選手揃い。「近年希に見るすごい試合になる」と解説者も太鼓判。「IKAIのカウンターアタックとブルボンのセンタープレーというタイプの違うプレーも見物」と語る。
試合が始まるとIKAIが次々にゴールを決める。しかもIKAIはブルボンの高いセンター攻撃を食い止めて得点を与えない。第1ピリオドは6対2でIKAIリード。第2ピリオドも展開は変わらず10対5でIKAI。このピリオドではIKAIの選手が鼻の骨を折るアクシデントも。まさに格闘技である。第3ピリオドは両者とも相手の攻め手を封じて得点が入らず13対6とIKAIがリードを保持。最終第4ピリオドではブルボンのセンター攻撃が爆発するかと期待したが、IKAIは鉄壁の防御で防ぎ、しかもゆったりと球を回すゾーン攻撃でもゴールをものにする。カウンターアタックだけでない攻撃の幅をブルボンに見せつけた。結果は17対9でIKAIは日本選手権7連覇を成し遂げた。
ブルボンのセンター攻撃を断った高田充選手はギリシャでも活躍。「ヨーロッパの水球を学んだ結果です。大きな選手ばかりの中で闘って防御の仕方がわかってきた。手を上げ続けてファウルをとられない防御。しかもチームは誰もがゴールを狙う超攻撃。勝ててうれしいです」と破顔一笑。抜群のオフェンスセンスの足立聖弥主将は「うちはカウンターのチームと言われていますが、ゾーンだって戦える。海外での経験を生かして攻撃に幅がある。ブルボンの外国人選手も抑えきった。この優勝を弾みに日本代表選手として世界選手権でも上位を狙いたい」と熱く語った。
IKAIを優勝させた塩田義法監督は爽やかな笑顔を浮かべる。「試合は拮抗するだろうと思っていました。相手チームには大きな外国選手がいる。強力なセンター攻撃をいかに封じるか。簡単にいくとは思わなかったが、高田などバックスの選手が頑張った。ファウルもせずに抑えきった。しかもその頑張りに攻撃陣が応えてしっかり点を取った。開始からの連続得点が大きい。7連覇できたことを誇りにしたい」。
優勝したIKAIから、さらに準優勝したブルボンからも多くの選手が日本代表に選ばれ、7月末からの世界選手権で強豪国を相手に戦う。過去7回連続で出場しているが最高位は9位。ベスト8が目標だが、メダルを狙える好ゲームを期待したい。